技術コラム Vol.34

RZ/T2M×TSNで超高精度時刻同期を実現!!

開発部 エンジニア / 大見

公開日:2026/7/15

製造現場におけるIT(情報技術)とOT(制御技術)のネットワーク統合が進む中、大容量のデータ転送技術とともに重要視されて
いるのが「高精度な時刻同期ネットワーク」です。

現在の製造現場のネットワークには、監視カメラの映像などの「大容量の情報 データ(IT)」と、ロボットやモーターを正確に動かすための「制御データ(OT)」が同じ回線を飛び交っています。 もしネットワークが混雑し、絶対に遅れてはならない制御データがミリ秒単位でもズレてしまうと、ロボットアームの誤作動やモーターの停止遅れなど、重大な事故につながりかねません。

このように、データの定時性(決まった時間内に確実に届くこと)を確保する同期通信は、現場の生産性だけでなく、安全性や信頼性を支える重要な要素です。このシビアな通信要件への対応は、工場にとどまらず、医療や航空といった幅広い分野でも共通の課題となっています。

そこで今回は、このネットワークの混雑課題を解決する時刻同期通信規格「TSN(Time-Sensitive Networking)」に焦点を当て、
当社製品「AP-RZT2-0A」を活用した高精度な同期ネットワークについて、わかりやすくご紹介します。

  1. TSNの概要
  2. AP-RZT2-0Aの製品紹介
  3. TSN通信のサンプルプログラムデモ
  4. まとめ

1. TSNの概要

「TSN(Time-Sensitive Networking)」は、イーサネット上で高精度な時刻同期とリアルタイム性を実現する時刻同期通信規格
です。

「時刻同期」と聞くと、PCやスマートフォンなどで日常的に使われているNTP(Network Time Protocol)を思い浮かべるかもしれません。 しかし、TSNの時刻同期を支えるPTP(Precision Time Protocol)は、NTPとは求める精度が大きく異なります。単にサーバから大まかな時刻を取得するのではなく、ネットワーク上の全機器が「1マイクロ秒以下」という極めて高い精度で同期するよう設計されています。

TSNが注目される背景には、製造現場における通信トラフィックの増大があります。機器同士の連携が進んだ結果、ネットワークが
混雑し、普段のログデータの中に「遅れが許されない制御データ」が埋もれてしまうトラブルが懸念されるようになりました。
かといって、「情報用」と「制御用」で物理的にネットワークを分ければ、配線や設備などの敷設コストが膨らんでしまいます。

TSNは、これらの課題に対する明確な解決策(アンサー)です。同一のネットワーク内にデータを混在させながらも、時間を細かく
区切って重要データを優先的に通す仕組み(時分割など)により、ネットワークの負荷状況に関わらず、確実な同期通信を可能にし
ます。

この確実性があるからこそ、産業分野にとどまらず、自動運転や遠隔医療といった高い信頼性が求められる最先端分野でも導入が
進められています。

2. AP-RZT2-0Aの製品紹介

「AP-RZT2-0A」は、TSNの他にも産業イーサネット機能やACサーボなどの制御に必要な高速処理に対応したリアルタイム制御向けMPU「RZ/T2M」を搭載したCPUボードです。 同じ「RZ/T2M」を搭載し、Ethernet機能を外すことでモーター制御などの高速処理に特化し小型化した「AP-RZT2-1A」もラインナップしています。

製品写真
AP-RZT2-0A/AP-RZT2-1A 仕様概要
項目 AP-RZT2-0A AP-RZT2-1A
CPU Cortex®-R52×2(デュアルコア Cortex®-R52(シングルコア)
FlashROM QSPI FlashROM 4MB QSPI FlashROM 4MB
RAM RAM 2MB
RAM(密結合メモリ)512+64KB
RAM 1.5MB
RAM(密結合メモリ)512+64KB
Ethernet 10/100/1000BASE×3ch なし
USB I/F USB2.0 Host/Function ×1ch(排他使用)
Pmod I/F 1ch
シリアル I/F 6ch
CAN I/F 2ch(CAN FD対応)
JTAGコネクタ CoreSight 10pin
電源 DC5V(I/O3.3V)

「AP-RZT2-0A」が対応している産業イーサネットについては、当社の技術コラム Vol.011『つながる!産業用イーサネット対応 マイコン』でもご紹介していますので、気になる方はぜひあわせてチェックしてみてください。

なお、本製品向けには、当社からEtherCATのサンプルプログラムを公開しているほか、ルネサス エレクトロニクス社からもEtherCAT、Modbus、EtherNet/IP®といった各種プロトコルのサンプルが提供されています。手軽に評価や開発をスタートできる
環境が整っていますので、詳しい情報はぜひCPUボードの製品ページをご覧ください!

RZ/T2M搭載 CPUボード「AP-RZT2-0A」
RZ/T2M搭載 CPUボード「AP-RZT2-1A」

3.TSN通信のサンプルプログラムデモ

今回は、ルネサス エレクトロニクス社が公開するTSNサンプルプログラム「RZ/T2M, RZN2L Group TSN Sample application Package」をAP-RZT2-0Aに移植し、実際にTSN通信の実力を調査してみました。

TSNは、国際標準化機関であるIEEE(IEEE 802.1ワーキンググループ)が策定を進めているイーサネットの拡張規格群です。
既存の産業イーサネットとは何が違うのか、実際 のデモ環境を使って確かめていきます。

TSN通信

このTSNサンプルプログラムには、サーバ側とクライアント側のそれぞれで時刻情報をシリアルログとして出力する機能が用意されています。

しかし、今回の目的はTSNの「真の実力」を測ること。ソフトウェアの処理遅延が含まれてしまうシリアルログではなく、今回はRZ/T2Mの端子「PTPOUT0(P8_3)」から出力されるパルス信号をオシロスコープで直接測定することにしました。
この「PTPOUTx」は、CPUの高精度な内部時計と完全に連動してパルスを出力する端子です。これなら、ネットワーク越しに両者の時刻がどれくらい正確に同期しているかを、ナノ〜マイクロ秒単位の物理的なズレとして目視で確認できます。

(1) 非同期の様子

まずはLANケーブルをつなげずに、サーバ側・クライアント側の双方のプログラムを開始した様子が以下です。

黄色信号がサーバ側、水色信号がクライアント側のPTPOUT0端子の様子です。 互いに1ms周期の信号を出力していますが、
同期してないタイミングでは、当然信号のエッジタイミングが合うことはありません。

非同期の様子
(2) 同期の様子

プログラムが動作している最中にLANケーブルで互いを接続した後、以下のように様子が変わりました。

同期の様子

互いの信号のエッジタイミングがぴったり一致しています。
さらにこのときの信号を拡大してみます。

測定波形

上図は測定波形を重ねて連続表示した内容です。LANケーブルを一本つなげるだけでサーバとクライアント間で約±20nsほどのブレしかなく、TSNの規格である1µs以下の1/50という超高精度な同期ができていることが確認できます。

(3) TDMAの併用

このTSNサンプルプログラムでは「TDMA(時分割多元接続)」によってデータ転送をタイムスロット単位で厳密に管理しています。
今回は、実際に優先度の高い通信(PROFINET RT通信)と、優先度の低い通信(UDP通信)をサーバ・クライアント間で同時に行き交わせて検証しました。

以下の図は、最優先となる「LEDの状態を変化させる通信(PROFINET RT通信)」が、専用に確保されたタイムスロット(TDMA0スロット)内で正しく処理されている様子をオシロスコープで撮影したものです。

高優先度データのために割り当てられたTDMA0スロットの区間が、サーバ(黄色)とクライアント(紫)の間で狂いなく同期していることが分かります。その上で、そのスロット内で行われた通信結果(緑色の信号変化)も、割り当てられた時間枠の中にしっかりと収まっていることが確認できます。

TDMAの併用

サーバとクライアントの時刻が完全に同期しているからこそ、性質の異なる通信が混在していてもデータの「定時性」を担保できます。 あらかじめ決めたタイミングでは最優先の通信だけを通し、それ以外の時間帯で普段のデータを流す。この「時間割」のような制御によって、「大容量の通信を行いつつ、絶対に遅れない重要通信も一本のネットワークに共存させる」という理想的な環境が構築できます。

4. まとめ

今回は、次世代の産業用ネットワーク規格「TSN」の仕組みと、産業イーサネットに対応するRZ/T2M搭載CPUボード「AP-RZT2-0A」の検証デモをご紹介しました。

「大容量データが飛び交う中でも、重要なデータを遅延なく届ける」という、これからのモノづくりに強く求められる課題を解決するTSN。強力なハードウェア処理でその実力を引き出せる「AP-RZT2-0A」を活用し、次世代を見据えた製品開発をスタートしてみてはいかがでしょうか?

製品のご案内

本コラムのより詳細な内容については、下記の製品のアプリケーションノートとして、公開しております。アプリケーションノート
では、開発にお役立ていただける技術情報を多数公開しておりますので、興味のある方は、ぜひ製品をご利用ください。

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